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「誰かのために書く」を極めた書の職人。 商品の個性を筆先で語る書道家・富永泰弘さん

書道家写真家イラストレーター

「誰かのために書く」を極めた書の職人。 商品の個性を筆先で語る書道家・富永泰弘さん

文・みけ みわ子

スキンヘッドに、趣味のボクシングで鍛えたがっしりした体格。 見た目はちょっとコワモテ風だが、話し出すと、優しいタレ目でニコニコと笑い、穏やかで話しやすい。

カメラを向けると、「写真を撮るのは好きだけど、撮られるのは恥ずかしい」と頭をかきながらも、さりげなくポーズを取ってくれた。

最初は写真家志望だった

「最初は写真家としてスタートしたんです。」

「富永さん=書道家」のイメージがあったので、冒頭からちょっと意外。

「ストリートで人物を撮って、ドキュメンタリーを撮るのが面白かったんです。写真の賞をもらって、本を出版したこともあるんですよ。」

ーすごい。どんな本ですか?

「あるホームレスのおじさんの写真をずっと撮っていたんですが、そのおじさんが交通事故で亡くなってしまったんです。 事故を起こしたのがプロボクサーの方で、この事件は当時けっこう話題になったんですよ。 

その後、そのプロボクサーの写真を撮らせてもらって。その軌跡をまとめたものが一冊の本になったんです。」

「ハイライト:ふたりの肖像」 富永 泰弘 著 (新風舎) 第9回 新風舎・平間至写真賞大賞受賞!

本は、ホームレスのおじさんとボクサー、それぞれの写真に、富永さんの手書きのメモが添えられていて、まるで日記のように物語が進んでいく。眺めていると、二人の思いや人柄が立ち上ってきて、思わず涙ぐんでしまった。

 

ーすごい…。本当に人の人生に密着する感じですね。

「この時にボクサーと関わった影響で、自分も趣味でボクシングを始めました。 でも、出版まではできたんですけど、ドキュメンタリー写真って需要が少なくて、仕事としては続けづらかったんです。」

富永さん直筆のメモが。

ーたしかに。面白いですけど、どちらかというとアートの領域ですもんね。スタジオ撮影のカメラマンとかは需要がありそうですけど、多分そういうことじゃないですよね。

「そうですね。その道もあったんですけど、あまり興味が持てなくて。自分は人の心の機微や、リアルな生々しさが好きなんですよね。 でも、自分が面白いって思うものを人に伝えるって難しいなと思いました。」

書道家への転身は、ほぼ独学で

ーそれで、どうして書道家になったんですか?

「まず、こじつけっぽいんですけど、写真も書道もどっちも平面ですよね。平面で物を作るのが好きなので、繋がってる部分もあって。 さらに、イラストの仕事もするようになって。」

ーなるほど。どうやって書道家の仕事をスタートされたんですか?

「大学(武蔵野美術大学)の友人や先輩が電通や博報堂に就職する人が多かったんですね。 それで、“富永はちょっと字が書ける”って知られていたので、単発で筆文字の仕事をもらったりして。

35歳で最初の結婚をして、生活のためにちゃんと稼ごうと思っていた時期だったので。筆文字の仕事のほうが需要がありそうだったから、思い切ってそっちに舵を切りました。

35歳まで現実が見られてなくて好きなことだけやってて、気づくのが遅いだろって感じで恥ずかしいですけど。笑」

ーいやいや。めっちゃ素敵じゃないですか。 書道は美大で習ったんですか?

「小・中学校のころに習字教室に通っていて、宮崎市のコンクールでよく入賞したりしてました。」

ーえ、その時の経験だけ!?

「それだけなんです。笑 だから、師範も持ってなかったんです。 でも、だんだん大きな仕事も増えてきたので、信頼を得るために取ろうと思って。 地元の宮崎の書道協会に連絡して、郵送で書いた物を送って、少しずつ段位を上げて師範を取りました。」

ーえ、じゃあ、書き方については指導されずに師範になったんですか!? すごい。笑  デザイン的な筆文字も、全部独学なんですか?

「そうですね。」

デザイン的な筆文字の例 純米吟醸「あさぎ」 (プリンスホテル×八海醸造〈新潟〉)

商品に合った書体を探り続ける

ー富永さんの文字って、本当に書体のバリエーションが多いですよね。

「はい。クライアントの要望や商品のイメージに合わせて書き分けています。」

ファミリーマート「ファミマル」シリーズ (ファミリーマート)

「例えば、この『ファミマルシリーズ』みたいなコンビニ商品って、お客さんが手に取るまでの判断が一瞬なんですよ。 だから、“伝わる速さ”と“わかりやすさ”が命。

その上で、よ〜〜く見るとわかるレベルの個性を忍ばせるのが好きですね。ちょっとした墨溜まりとか、生々しさを少し出す。」

ー生々しさと言えば、書いたものはレタッチせずにそのまま使うんですか?

「はい。生のライブ感が好きなので、できるだけ生原稿を活かして、ほぼそのまま納品します。掲載媒体のスペースの関係などで、先方が配置調整をする場合はありますが。」

東京スカパラダイスオーケストラ 全国ツアー【2018 Tour「SKANKING JAPAN」“めんどくさいのが愛だろっ?”編】

「スカパラのコンサートの文字なども何度も書かせていただいています。 スカパラが自分に筆文字をオーダーしているということは、思いっきりロマンチックに書いて欲しいということだと思うので、陶酔(とうすい)した字を書きました。 割れてる筆をあえて使ったりしてます。」

ーコンビニの読みやすさ重視の文字とは対極ですね。

「お~いお茶×大谷翔平」 (伊藤園)

「自分は、この『お~いオオタニサン!』の文字のような力強い系のイメージがついていて、こういうスタイルのオーダーが多いですね。クライアントともイメージが共有できているので、すぐにオッケーをもらえることが多いです。」

Eテレ「サビ抜きで。」 (NHK Eテレ番組)

ハーゲンダッツ クリスピーサンド「華やぐアールグレイミルクティー」 (ハーゲンダッツ ジャパン株式会社) 注:「アールグレイの、風がきた。」が富永さん書

「『サビ抜きで。』やハーゲンダッツで書いたような、繊細な感じの文字とか、サインペンで書く文字も得意なので、そのイメージも定着させていきたいですね。」

KAGOME「野菜生活」シリーズ  (カゴメ株式会社)

「野菜生活は、コンビニ等に並ぶ商品だから読みやすさ重視なんですけど、その中でいかにその果物っぽさを出すかにこだわりました。」

ーたしかに、ひとつひとつ違いますね! 桃は、いかにも桃って感じで可愛い。みかんは、丸みとか和の感じが出てますね。

「文字をそのまま桃の形にするんじゃ芸がないですからね。筆のかすれやハネでジューシー感を出したりして、自分なりの桃やみかんのイメージを形にするのが楽しいですね。」

ーいろいろなスタイルを書き分ける中でも、一貫して“誰かのために書いている”感じがありますよね。

「クライアントや、その先にいるエンドユーザーに届くものにしたいんです。 自分の内面を表現したいっていうのはないんですよ。自分はフツーの人間だから。親も公務員だし。」

ーなるほど。自分自身は普通で面白みがないように感じるから、他人や他のものの方に興味があるんですね。

「写真も、人を追って、その人の魅力を引き出せるのが楽しいんですよね。 写真でも習字でも、人や商品の良いところを探して、その良いところがどの方向を向いてるかを見極めて、目に見える形にする。

いいものが書けたなーって自己満足するよりも、クライアントが喜んでくれた、商品が売れたってほうがずっと嬉しいですね。だから仕事は大好きです。」

ー良いですね。
話は変わりますが、書道ってごまかしがきかなくて、まさにライブって感じじゃないですか。ドキュメンタリー写真と同じように、やっぱりそういうリアルで生々しいものが好きなんですかね?

「はい。そういうのがすごく好きです。」

ー文字で表現するって、絵を書く以上に、すでに決まった文字を使うというすごい制限がありますよね。

「そうなんです。そういう、ルールや制限がある中で可能性を探ってチャレンジしていくのが楽しいですね。」

受注・納品について

ー実際の、クライアントとのやりとりについて教えてください。

「1回目の提案で、5案くらい出します。その中で好みを聞いた上で、またさらに書き分けていきます。」

ーどれくらいのスピード感で書くんですか?

「1週間もらえたらけっこうありがたいくらいで。2・3日をご要望されることもあります。」

ーけっこうタイトなんですね! 納品形式は、データですか?

「要望に応じて、スキャンデータ・イラレ・フォトショのデータをお渡ししてます。原画が必要な場合は、それもお渡しています。」

イラストの仕事も増えてきた

ーイラストの仕事はどうやって始まったんですか?

「美大受験でデッサンをみっちりやったので、絵はある程度描けたんです。

でも、ほとんどイラストの仕事はしてなかったのに、いきなり、このSAMURIDEというエナジードリンクの大きな仕事がきたんですよ。 この、筆の絵のパーツを全て描いたんです。人物の残像とか、山とか鳥とか。 それで、駅に大きな広告が掲示されたりして。」

SAMURIDE(サムライド)エナジードリンク(House Wellness Foods〈ハウスウェルネスフーズ〉)

ー写真に富永さんの絵が合成されてるんですね。かっこいい。

「これが初めてのイラスト仕事で、しかも大規模で。プレッシャーもすごかったんですが、逆に吹っ切れて、それ以降はわりと怖いものなしになりました。笑」

墨絵・イラスト

ーデッサンがしっかりしているし、味があって可愛いですね。

再婚と新しい家族のかたち

「不躾なことを聞きますが、みけさんはおいくつですか?」

ーえ? 私は37歳です。

「…今度、再婚することになりまして、奥さんがみけさんと同い年です。」

ーええー!! えっ、富永さん51歳ですよね? ってことは私たち夫婦と完全に同じ歳ですよね。14歳差夫婦って、そんな偶然ある!?笑 

「ほんとびっくりですね。笑 僕らはお互いバツイチで、向こうは子供がいるんですよ。」

ーわー、じゃあ、いきなり子供ができるんですね!

「はい。子供がけっこう懐いてくれて、それも決め手でした。」

ー富永さんの人柄が伝わったんですね。奥さん、絶対幸せですよ。今日は本当に素敵なお話をありがとうございました!

 


人やモノのリアル・生々しさを見つめ、その魅力を形にしてきた富永さん。 新しい家族と共に、これからの活躍がますます楽しみです。

富永 泰弘さん

書道家/写真家/イラストレーター。宮崎県出身。
武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科を卒業後、現在は東京都を拠点に活動。
大手企業のパッケージデザインや大型ディスプレイ、商品ロゴなどを多数手がける。力強く印象的な書が特徴だが、繊細な表現のペン字なども得意とする。

https://tominagayasuhiro.com/

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