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華やかな実績と揺るがぬ美意識。本質を貫くデザイナー・杉本マコトさん

クリエイティブディレクターグラフィックデザイナー出版社代表

華やかな実績と揺るがぬ美意識。本質を貫くデザイナー・杉本マコトさん

文・みけ みわ子

 

初対面の印象は、おしゃれでムーディー。
この日も、可愛い水色のシャツをさらっと着こなし、そこはかとなく良い香りを漂わせながら登場した杉本さん。

居住されているマンション最上階のパーティールームをお借りして、デザインにかける熱い思いをじっくり伺いました。

ジャンルを横断して、ブランディングを手がける

ーどんな分野のデザインのお仕事をされているんですか?

「紙もwebも、デザインなら全部ひっくるめて何でもやっています。」

ロングセラーの『コレ1枚でわかる最新ITトレンド』のカバーデザインを、改訂の度に手がける

 

コスメティクス FIERTE SOIGNEのポスターデザイン

会員制の焼肉店29ONのおせちの風呂敷をデザイン。テキスタイルまで幅広く手がける

ーどれもさりげなく洗練されていてオシャレですよね。細部にまでこだわっているのがわかります。
ー (カメラマン) 杉本さんと仕事をすると、クライアントがデザインのカンプを見た瞬間、「わ〜、素敵っ!」と声を上げる場面によく出くわすんですよ。

「ありがとうございます。最近は、ブランディング全般を手がけることが増えました。

例えば、大学の学部のブランディングをしたり、熊本の農家が廃棄するトマトでジュースを作るので、そのリブランディングをしたりしています。」

武蔵美合格までなんと三浪。“挫折”が育てた圧倒的な実力

ーブランディング全般を任されるって、すごい実績とセンスがあるからですよね。
それだけセンスがあるってことは、ご家族も同じような仕事をされていたんでしょうか? 特別なご家庭だったのかなって。

「いえ、家族でそういう仕事をしている人はいないですね。でも、子供の頃から絵を描いたりするのは得意でした。」

ーなるほど。大学はどちらに?

「武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科です。」

ー最初から美大を志してたんですか?

「いえ。普通に理系のクラスにいたので、理系の学校に行こうと思ってたんですけど。
受験間際になって、「やっぱ美大行こうかな」ってなんとなく思って。」

ーえ!? そのノリで美大って受かるんですか?笑

「デッサンとかもそんなにやっていなかったので、当然受からなくて。
新潟から出てきて、東京の予備校に通って、結果的に三浪しました。」

ー三浪ですか! ずっと華々しいイメージだったので意外です。笑 

「団塊ジュニア世代だったので、人数が多くて、倍率が50倍くらいあったんですよ。」

ーわ〜それは確かに厳しい!
ちなみに、グラフィックデザインをやりたいというのは、受験生の時にもう決めていたんですか?

「最初は工業製品などの、プロダクトデザインがやりたかったんです。
でも、日比野克彦さんがちょうどグラフィックで注目を浴びるようになって、『グラフィックいいじゃん』と思って、浪人時代に転向しました。」

在学中に賞金100万円!
アートの才能で名を刻んだ学生時代

ー美大時代はどんな感じでしたか? 印象に残ってる授業とかありますか?

「う〜ん。自分の作品作りに熱中していたので、あんまり授業の記憶がないです。笑」

ー授業受けてないんですか?笑

「3浪しましたけど、10代の頃って、やっぱり一番伸びる時期じゃないですか。
自分は周りの生徒よりも3年間長くやってるから、やっぱりその、正直なところ、実力差が大きいんですよね。だから、物足りなく感じて…」

ーなるほど! じゃあ、浪人してよかった面もあるんですね。実力がしっかりついて。

「まあ、そうですね。それで、アート寄りの作品を作って、いろんなコンペに出して、賞を獲ったりしてたんですよ。」

ー在学中に! すごい。それは確かに授業どころじゃないですね。笑

「そうなんです。笑 伊勢丹が協賛していたコンペで金賞をもらって、賞金を100万円もらえたんですよ。」

ーすごすぎる!! 当時の100万円…。

「同じく在学中に、リクルートが主催している『ひとつぼ展』でも受賞しました。」

Wikipedia『ひとつぼ展』より引用

「あと、パルコ主催の『日本グラフィック展』で日比野克彦さんが賞を取って注目されてたんですけど、僕も受賞しました。」

ーおおー! そうそうたるメンバーと肩を並べている…!

「だからこの先、日比野さんと同じようなルートで進めるのかなと思ったら、ちょうどバブルが崩壊して…。
そういうアート系の需要は全くなくなってしまいました。」

ーええ〜! なんてタイミング…。

「それで、しかたないからアートではなく、商業的なグラフィックデザインをやろうと思って。
賞金の100万円があったんで、大学4年生の時に、当時発売されたばかりのMacを買いました。

Macのおかげで、バイトでデザインの仕事ができました。
神楽坂のお堀にCANAL CAFEというところがあって、その隣のボート乗り場の東京水上倶楽部の旗をデザインしました。」

神楽坂 CANAL CAFE併設の「東京水上倶楽部の旗」

「今も、ドラマのロケでよく使われている場所です。当時デザインした旗がテレビに映ると、『まだ残ってるんだなー』と思って、ちょっと嬉しいですね。」

卒業後すぐに独立。Macひとつで始めた、プロとしての第一歩

ー学生時代にすでに、現代にも残る仕事ができていたんですね。それで、卒業後はどうしたんですか?

「Macがあれば、今までみたいに手書きで作業する必要もなくなって、『これ、一人でデザインできるじゃん』と思って。
そこで、就職はせず最初からフリーランスとして活動を始めました。」

ーそれができちゃうのがすごい。笑 
賞をもらった影響で仕事のオファーがきたりしましたか?

「いや、賞の影響としては、ギャラリーから声がかかって絵の個展をやったり、リクルートの展示に出展したりはしましたけど。
やっぱりアートはお金にならないですね。」

マフラー リクルートホールディングスのギャラリーで開催したCREATION Project 2015「伊達ニッティング」にて展示・販売された

「グラフィックの仕事は、紹介でちょっとずつ増えていきました。当時はクラブに通ってたので、クラブのフライヤーや映像を頼まれたり。
独学でMacやAdobeのソフトを使えるようになったので、デジタルハリウッド大学の講師もやりました。

それで、個人だと大きな仕事を受けづらかったりしたので、30代半ばに法人化して、OPTIC OPUSを立ち上げました。」

一冊に魂を注いだ。写真集『紅子の色街探訪記』制作秘話

ーここまで、OPTIC OPUS立ち上げまでの話を伺いましたが、
最近の仕事で特に印象に残っているものはありますか?

「うーん。2023年に、写真家の紅子さんの写真集を出版したことですかね。『紅子の色街探訪記』というタイトルです。」

ー杉本さんが出版したんですか?

「はい。実は自分は、デザイン事務所をやってるだけじゃなくて、出版社の代表もやってるんですよ。株式会社アテハカパブリッシングという出版社です。」

ー初耳です! それは、どういった経緯で?

「もとクライアントの東京医科歯科大学の教授が、本を出すために出版社を作ることになったんです。自分に社長をやってほしいというオファーがきて、引き受けました。
それで、せっかく出版社の社長になったんだから『本の企画を考えなきゃ』と思っていた時に、紅子さんの写真をたまたま見て。

すごくよかったから、紅子さんに『写真集を出しましょう』と話を持ちかけました。
ただ、それまでアテハカパブリッシングでは固い内容の本を出していたので、ちょっと毛色が違ったんですよね。それで結局、デザイン事務所のほうで出版しました。」

ーあ、本当だ。出版社名がOPTIC OPUSになってる!
全国の遊郭や吉原跡地なんかを撮ってるんですね。

「紅子さん自身がもと風俗嬢で、今は色街写真家として活動してるんです。
写真を撮るのに、三重県まで同行したりしましたよ。」

三重

ー杉本さんのやった作業としては、ええと…全部ですかね?笑

「はい。紙を選んで、デザインして、文章も手直しして…全部です。笑
帯文もすごいメンツなんですよ。
編集者の都築響一さん、元アサヒカメラ編集長の佐々木広人さん、カストリ書房店主の渡辺豪さんといった感じで。」

ーそうそうたるメンバーですね! どうやって書いてもらったんですか?

「みなさん、頼んだら書いてもらえました。
紅子さんの個展に佐々木広人さんがいらしてたので、「頼んでみよう!」って。
書いていただけてよかったです。」

ーデザインが隅々までかっこいいですね。

「掲載写真の半分は、この本のために撮り下ろしてもらいました。沖縄から北海道まで回りましたよ。
かつて売春島として栄えた、三重県の渡鹿野島(わだかのじま)にも行きました。」

渡鹿野島

「カバーの写真もわざわざ撮りに行ったんですよ。伊勢の麻吉(あさきち)旅館という、もと遊郭街の飲食店だったところで。宿泊して、朝4時に起きて撮影しました。」

「本の帯は、着物の帯をイメージして、赤いトレーシングペーパーにしました。日本のだと発色がいいものがなくて、フランス製の発色の良いものを使ってます。」

ーこだわりがすごい…!

「A4の横開きは、縦よりも高価になるんですよ。でも、横の方が見開きでスケール感がでるので横にしました。
さらに、本がしっかり開いて見やすいように、クータバインディングという手法で製本しています。背に筒状の紙(クータ)を貼り、背表紙と本体の間に空洞をつくることで、手で押さえなくても本が閉じにくくなっています。さらに、クータの内側も赤に統一して…。」

クータバインディング

ーめっちゃお金かかってるんじゃないですか?

「はい。だから初版では採算が取れていません。笑
普通に売ったら、安くても5,000〜6,000円はする仕様なんですよ。(価格は税込4,180円)」

ーえええ。 いいんですか?笑

「でも、ちゃんと作ったからめちゃくちゃ評判が良いんですよ。これから海外でも売っていこうと思っています。」

ー海外の人にも刺さりそうですよね。

「今出している2版では、写真を一部差し替えたのと、コストの問題で紙を変えました。
初版の紙はものすごく良い紙を使っていたので。2版の紙ももちろん良いんですけど。
それで、2版からはぎりぎり利益がでるようになりました。」

ーよかったです! お金よりも、とにかく「美しくなるほう」に向かって一つ一つ選んでいった感じの本ですね。将来、プレミアがつきそう。 

AIは敵じゃない。プロの視点で語る“生成AIとの向き合い方”

ー今(2025年7月)、AIが台頭してきて、時代の大きな変化が起きていますよね。
杉本さんは、仕事でAIを使っていますか?

「本格的に使い出したのはここ1・2年ですね。
といっても、著作権の問題があるので、ビジュアル作りに使えるのはAdobeのFireflyだけですが。
ただ、ラフやムービーの絵コンテや、企画書までAIで作れるのでかなり楽になりました。」

「以前は、仕事を始める時はクライアントの話を聞くことからスタートしてました。
でも今は、AIでリサーチしたたき台を持って打ち合わせに臨みます。お客さんのウケが良くなったし、効率がアップしましたね。」

ーなるほど。具体的にどんなAIを使ってるんですか?

「リサーチはChatGPTとPerplexityです。画像生成は、著作権の問題でFireflyを使ってますが、Midjourneyなどのほうが精度は高いですね。
自分はまず、何をするにしても、イラレ(Adobe Illustrator)を使うことが多いです。イラレで簡単に構図を作って、AIに読み込ませて作らせると精度が上がります。」

ー最近、AIに仕事が取って変わられて、受注が減ったなんていう話も聞きますが…そういう影響は感じてますか?

「自分のところは、受注は減ってはないですね。ちょっとしたバナーを1・2万円で受けてるようなデザイナーは大打撃を受けてると思いますが。
自分はブランディング全般を請け負うケースが多いので、むしろAIのおかげで作業量が減って楽になりました。」

ー素晴らしいですね。AIの情報はどうやって入手してますか?

「生成AIのコミュニティに入っています。
ただ、せっかくAIを使うならクリエイティブに使えばいいのに、今はAIの情報を売るビジネスばっかりですよね…。

最近は、デザイナーでもその手の人が多いですよね。『未経験から年収1,000万円になった方法』なんて情報発信をしてるけど、その人の制作実績を見ようとしてもロクに載っていなかったりして。笑」

目先の利益にとらわれず、“長く愛されるブランド”を作る理由

ー最後に、ブランド作りで大切にしていることを教えてください。

「目先の利益と長期的なブランディングは別問題だと思ってます。
マーケティングは、割と目先の利益を重視しますよね。こうすればアクセス数が増えるとか、色をもっと派手にしたらクリックされるとか。
でも、果たして、それは10〜20年後のブランディングに対してプラスになるのか?っていう。

長い目で見たら、ブランドを好きになってもらってファンができることのほうが大事。
結果的に、それが一番効率が良いと自分は思っています。ファンができれば、いちいち宣伝しなくてよくなるんで。」

ー確かに。

「同じくらいの低価格・高品質のブランドで、ユニクロと無印があるじゃないですか。
ユニクロは、毎週かなりベタなデザインの広告を刷ってますよね。あれは、ファンを作ろうとはしていない。だから、値段が高くなったらみんな離れると思う。

でも、無印はそういうことはしない。世界観を大事にして、時間をかけてファンを作ろうとしています。そういうところは、高くなってもファンが残ると思います。」

ーなるほど。
それでいうと、杉本さんは、無印的な方向性でやっていきたいということですよね?

「そうですね。」

室名札・学校教室の名札のメーカー(株)フジタの営業用パンフレット。ブランドイメージを大切にした、主張しすぎないが丁寧で洗練されたデザインが印象的

クライアントと共に一貫性を築く。“その場しのぎ”ではないブランドの育て方

ーでも、杉本さんがそういう長期的なビジョンを持っていても、お客さん側がそうじゃないと、すり合わせが難しそうですね。

「そうなんです。
よくあるのが、クライアントが社内で多数決をとっちゃうパターンですね。みんな、自分の責任になるのは嫌だから。でも、そのやり方で良い方向に行った試しがない。

『これはAさんの意見で、こっちはBさんの意見で…』みたいに、いろんな声をそのまま取り入れようとすると、ブランドとしてのまとまりがなくなっちゃうんですよね。

だから最初に、『多数決で決めるのはやめましょう』『もしやるなら、<誰が決めるのか>を多数決で決めて下さい』と伝えています。」

ー確かに、それなら一人の人が決めることになるから、ちゃんと軸ができますね。

「あとは、『決定権者と直接コミュニケーションを取らせてください』とお願いしています。
酷い話だと、一番最後に社長に許可をもらう段階で、全部ひっくり返されたりするんで。」

ーあるあるですね。笑

「口出ししたい人がいるなら、最初からミーティングに参加するようにしてもらいたいです。」

ー今のお話も、場当たり的に考えるのではなく、長い軸で考えるという視点で、ブランディングに対する考え方と同じですね。

「そうですね。”その場しのぎ”は、できるだけ避けたいです。」

ーそういう、長期的なスパンで考える視点はどこで身についたんですかね?

「会社員にならずに、最初から一人だったのが大きいと思います。大きい組織のデザイナーだと、最初は末端の作業だけの期間が数年あったりしますけど。

自分は最初から一人で、上司もいなくて直接クライアントと話す機会が多かったから、全体像や長いスパンでものを見る力が身についたのかなって。」



ーお話を伺っていて、ブレない信念と美意識がひしひしと伝わってきました。
本日は貴重なお話をありがとうございました!

 

多彩なジャンルで活動しながらも、一貫して“本質を見抜き、長い目でブランドを育てていく”という姿勢を大切にしている杉本さん。

時代の変化や技術革新に柔軟に対応しつつも、その根底にある美意識と信念は揺るがない。丁寧に積み重ねられた一つ一つの仕事の中に、杉本さんらしさが確かに息づいていた。

 

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杉本マコトさん

グラフィックデザイナー/アートディレクター。OPTIC OPUS有限会社 代表取締役、株式会社アテハカパブリッシング 代表取締役。新潟県出身。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業後、独立。
ロゴ、書籍、WEBサイトまで、ジャンルを横断したブランディングを手がける。クライアントの想いを丁寧にすくい取り、長く愛される“芯の通った世界観”を築くデザインに定評がある。これまでに「ひとつぼ展」「日本グラフィック展」などで数々の賞を受賞。

https://www.opticopus.com

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